住まいのコラム
賃貸のフローリングに傷がついた!
退去時の費用は?修繕は必要?
最終更新日:

- 矢野 翔一
- 2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者/有限会社アローフィールド代表取締役社長
- 賃貸のフローリングに傷つけたら修繕費は自己負担?
- 修繕費が自己負担となるかどうかは、傷がついた原因により異なります。家具の設置によるフローリングのへこみのような通常使用の範囲での傷は原則入居者の負担になりません。一方、ものを落としたことによる傷のような入居者の過失や故意による傷は、入居者の負担となる可能性があります。その場合、いくら払うことになるかは、床材や修繕範囲によって異なります。
賃貸物件で生活をしていると、何らかの過失により床を傷つけてしまう場合があります。衝撃の強さによっては大きな傷が残ってしまい、退去時に修繕費を負担しなければならないこともあるでしょう。
フローリングにつけてしまった傷の修繕費は、どこまで入居者側で負担しなければならないのでしょうか。今回は賃貸物件のフローリングに傷をつけた場合の修繕費や、責任の切り分け方についてご紹介します。
目次
賃貸のフローリングに傷が!退去時に修繕費用は支払う?

入居期間中にフローリングについてしまった傷の修繕費用は、基本的に傷がついた理由によって誰が負担するのかが変わってきます。国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、建物の損耗・毀損に対する責任の所在を次のように定めています。
費用が自己負担にならないケース
入居期間中に発生した建物の傷みや劣化のうち、時間経過にともなう自然な劣化や通常使用の範疇における損耗に対する修繕費用は、大家側の負担となります。例として
・家具の設置によるフローリングのへこみ、設置跡
・日焼け・色落ちしたフローリング
などは、入居者が故意や過失により発生させたものでない限り、原則的に入居者が費用を負担する必要はありません。
費用を負担しなければならないケース
入居期間中に入居者が原因で発生した傷や劣化は、たとえ過失によるものであったとしても、修繕費用を入居者側が負担する必要があります。たとえば
・ものを落としてつけてしまったフローリングの傷・へこみ
・冷蔵庫下のサビやフローリングの腐食
といった理由での損耗・損壊は、自然使用や経年劣化が原因とはいえないため、入居者が自己負担で修繕しなければなりません。
敷金を設定している物件の場合、修繕費用は退去時に敷金から清算されますが、預け入れた敷金で修繕しきれない場合には追加の費用を支払う必要があります。

ほかにもたばこによる焦げ跡、ペットによるひっかき傷などは通常使用によって発生した傷とは異なるため、原状回復義務を負うことになるのが一般的です。
退去時にかかる修繕費用はいくら?

入居者が負担するフローリングの修繕費用は、修繕する範囲や素材によって大きく異なります。退去時に必要な修繕費用は、具体的にいくらぐらいかかるものなのでしょうか。
傷の範囲で費用は異なる
フローリングの修繕費用は、原則として1平方メートル単位で決まります。小さな傷がつくたびに全面張り替えをするようなことはなく、必要な部分の板材のみを交換して修繕を行うため、損耗の範囲に対して法外な修繕費用が請求されることはないでしょう。
ただし、損耗や変色の範囲が広範囲にわたる場合や、一部分だけ交換すると色ムラが激しくなるような場合には、大家さんと入居者による協議を行ったうえで全面張り替えになるケースもあるようです。
床材による修繕費の違い
フローリングの修繕費用は、床材の種類と広さによって決まります。フローリングの床材には「複合フローリング」「防音フローリング」「無垢材フローリング」といった種類があり、メーカーや木材の種類によってさらに金額が変わります。
フローリング張り替え費用の目安は以下の通りです。
1平方メートル | 4.5畳 | 6畳 | 8畳 | |
---|---|---|---|---|
複合フローリング | 4,000~9,000円 | 3万~6万円 | 4万~9万円 | 5万~12万円 |
防音フローリング | 9,000~1.5万円 | 6万~10万円 | 9万~14万円 | 12万~20万円 |
無垢材フローリング | 6,000~1.5万円 | 4万~10万円 | 6万~13万円 | 8万~17万円 |
フローリングの張り替え方式は、大きく分けて「張り替え」と「重ね張り」の2種類に分類されます。
張り替えは、既存の床を剥がして新しい板材をはめ込む方式です。工事費用は面積に対して高額になる傾向がありますが、傷んだ箇所のみを部分的に交換できるため、施工後の耐久性が高く保ちながら費用を安く抑えられます。
重ね張りは、既存のフローリングの上に新しい板材を上張りする方式です。通常のフローリング材は厚さが12~15mmほどありますが、重ね張り用の板材は3mm程度であるため、重ねても床が高くなったような印象を受けません。また、既存の床を撤去する必要がないため工事費用を安価に抑えられますが、既存のフローリングに板を重ねた分だけ高くなるため、扉が開かなくなるといったトラブルに留意する必要があるでしょう。
フローリング以外の床の場合
賃貸物件に採用される床には、フローリングの他にもいくつかの種類があります。代表的な床の張り替え費用はおおよそ以下の通りです。
1平方メートル | 1畳あたり | |
---|---|---|
畳 | 4,000~2万円 | |
カーペット | 2,000~1万円 | |
クッションフロア | 2,000~5,000円 |
畳の張り替え方法には「裏返し」「表替え」「新調」の3種類があり、張り替えは1畳単位で行われます。「裏返し」「表替え」は既存の畳床を流用するため張り替え料金を抑えやすく、すべて新品に交換する「新調」は張り替え費用が比較的高額です。
カーペットの張り替え料金は、張り替える範囲の広さとカーペットの種類で決まります。カーペットにはさまざまな産地や工法があり、ブランド商品も多く存在しています。品によっては高額の張り替え費用が必要になり、全面張り替えに数十万円かかるケースも珍しくありません。
クッションフロアの張り替え費用は比較的安価ですが、構造上壁と床の接合部の部材であるソフト巾木の交換をともなうケースが多く、クッションフロア本体の費用に加え、1万円ほどの追加料金がかかるのが一般的です。
費用を払いたくない…自分で修繕してもよい?

フローリングにつけてしまった傷がとても小さなものだったとしても、入居者が自分で修繕するのは避けたほうがよいでしょう。
ホームセンターには、フローリングの傷を自分で修繕するためのキットが安く販売されていますが、残念ながら素人の修繕とプロによる修繕は、その仕上がりに大きな差が生まれてしまいます。
また、傷めたフローリングと相性が悪いキットで修繕を行った結果、かえって状態を悪化させてしまう可能性も。そうなれば、退去時に高額の張り替え費用を請求されることにもなりかねないでしょう。
では、入居者本人による修繕ではなく、入居者が費用を負担しプロに修繕を依頼した場合はどうでしょうか。確かに傷の修繕はきれいにできるかもしれませんが、修繕費用が退去に支払う原状回復費用よりも安くなる保証はありません。かえって大家が負担すべき箇所まで修繕してしまい、不要な費用がかかってしまうようなケースも考えられます。
自分で修繕して原状回復費用を下げたいという気持ちは理解できますが、取り返しがつかない傷にまで発展させてしまわないよう、素直に大家や管理会社に相談するのが無難な対応といえるでしょう。

原状回復義務を負わずに済ませる、費用負担を軽減させるための工夫や対策がネット上には数多く公開されています。しかし、本文にもあるように工夫や対策が原因で本来負担せずに済むはずの費用が発生することもあるので注意してください。
フローリングを傷だらけにしないための対策

フローリングの張り替え費用は、入居者が負担する原状回復費用の中でも高額になる傾向があります。退去時に敷金を超えるような修繕費用を発生させないためにも、入居中はフローリングに傷をつけないような対策を行うのが大切です。
カーペットやマットを敷く
フローリングの上に敷くカーペットやマットは、傷対策として大変有効な手段です。カーペットやマットはフローリングの上を広くカバーできるため、子どもが室内を動き回ったとしても傷がつくのを防止しやすくなります。
また、足音が響きやすいフローリングの上にカーペットやマットを敷くことで、階下への防音対策も期待できるでしょう。
家具の脚・底を保護する
家具の移動はフローリングに傷をつけてしまう要因のひとつです。頻繁に移動させる機会が多い家具や重量がある家具には、底面を保護するためのクッションやカバーをつけるのがおすすめです。
家具の設置によるフローリングのへこみは、ガイドライン上は通常損耗と見なされます。 しかし、尖った脚の跡をくっきりとつけてしまった場合、通常損耗の範囲外と判断される場合があります。あらかじめ家具の下にクッション性のあるマットやシートを敷いておくのがおすすめです。キャスター付きの椅子を使う場合も、フローリングの上にラグやチェアマットを敷いておくと、キャスターが不要な傷をつけるのを防いでくれます。
ワックスがけは家主の承諾を得てから
フローリングの傷防止にはワックスが有効です。ワックスはフローリング表面のコーティングの役割を果たしてくれるため、傷をつきにくくしてくれるだけでなく、乾燥や汚れ防止の効果も期待できます。
ただし、フローリングの種類によって使用できるワックスが異なるため、床材に適した種類のワックスを使わなければなりません。相性が悪いワックスをかけると、かえってフローリングを傷めることになりかねないので、ワックスをかける前には、必ず大家さんや管理会社に相談し、最適な種類のワックスを塗る承諾をもらっておきましょう。
入居時に床の状態や契約書も確認しておこう
退去時に原状回復費用を負担するのは入居者の義務ですが、負担の必要があるのは自分でつけた傷に対する修繕費用のみです。入居前にすでについていた傷や汚れに対する修繕費用は負担する必要はありませんが、入居前からあったことを証明できなければ水掛け論になってしまうでしょう。
退去時に余計な費用を負担しなくてもいいように、入居時についている傷や汚れを記録しておくのがおすすめです。撮影した写真は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に掲載されている「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」とともに管理会社に送付し、自分の手元にも同じものを残しておけば、退去時に原状回復の範囲を付け合わせしやすくなるでしょう。
なお、先述の通りガイドラインの内容にかかわらず、賃貸借契約書によって退去時の原状回復費用の負担割合が定められている場合があります。たとえガイドラインからは外れた理由で費用負担を求められるとしても、契約書に同意していると支払いの義務が発生してしまうため、入居前には必ず原状回復費用負担の条件を確認しておきましょう。
まとめ
賃貸物件のフローリングに傷をつけてしまった場合、退去時に原状回復費用の負担を求められる場合があります。意図的であったかどうかは問われず、通常損耗や経年劣化に該当しない傷や汚れの修繕費用を自己負担する必要があります。
フローリングの原状回復にかかる費用は、修繕する範囲によって数千円~数万円までさまざまです。通常は敷金が修繕費用にあてられますが、損耗が激しい場合には追加費用が発生するケースもあります。意図しない行動でフローリングに大きな傷を残さないよう、カーペットやマットなどを利用してフローリングを大切に守りましょう。
監修者プロフィール

- 矢野 翔一
- 関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。