住まいのコラム

敷金は返ってくる?
返還される割合や時期を解説

最終更新日:

監修者
矢野 翔一
2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者/有限会社アローフィールド代表取締役社長
敷金は退去時に返ってくる?
敷金は必ずしも返ってくるとは限りません。敷金が返ってくるケースは約7割とのデータもあります。
また、返ってくる場合の返還率(いくら返ってくるか)は、入居者の原状回復費の負担割合で決まります。なるべく多くの敷金の返還を受けたい場合は、設備や備品の破損や汚染などを防ぐために、適切な使用を心がけることが大切です。

敷金は、大家さんに「支払う」のではなく「預ける」という認識から、退去時に必ず返還されるものと考えている人も多いのではないでしょうか。

敷金は退去時の原状回復や未払い家賃の補填などに使われるため、場合により返還されないこともあります。

本記事では、敷金が返還されるケース・されないケースから、返還される敷金の相場、敷金トラブルの回避方法まで詳しく解説します。

賃貸で敷金が返ってくる割合は約7割

賃貸物件から退去する際に敷金が返還される人の割合は、約7割とのデータがあります。ただし、敷金が返還されるかどうかは部屋の状態や未払い家賃の有無などで決まるため、あくまでも参考程度に留めましょう。

敷金について簡単におさらいするとともに、敷金が返還される人の割合について、詳しく解説します。

そもそも敷金とは

敷金は、退去時の原状回復費用に充てるための預かり金です。入居者が故意・過失によって破壊・汚染・消耗などをした設備や備品の修繕や交換の費用に充てられます。預かり金のため、残った金額は入居者に返還されます。

敷金の役割について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

敷金とは?礼金との違いや返金の有無、なしの場合のデメリットを解説

敷金が返ってきた人は69%

リクルート住宅総研の「NYC, London, Paris & TOKYO賃貸住宅生活実態調査 調査結果解説」によると、東京都の賃貸物件の入居者のうち、敷金が返還された人の割合は69%です。約7割の人は1円以上の敷金が返還されており、残り約3割は一切返還されていません。

返還されていない人には、原状回復費が多額になったことで追加請求を受ける人や、敷金が低額なために返還されないことが前提だった人も含まれます。

出典:リクルート住宅総研 NYC, London, Paris & TOKYO 賃貸住宅生活実態調査 調査結果解説

返金される敷金の金額相場

東京都の賃貸物件の入居者のうち、敷金の返還率と返還された人の割合は、次のとおりです。

返還率 返還された人の割合
全額 12.2%
5割~10割未満 41.3%
5割未満 15.5%
なし 31.0%

敷金が全額返還された人の割合はわずか12%で、もっとも多いのは5割~10割未満の額が返還された人でした。

平均返還率は4.2割で、仮に敷金が家賃2ヵ月分とすると、1ヵ月分も返還されない計算です。

出典:リクルート住宅総研 NYC, London, Paris & TOKYO 賃貸住宅生活実態調査 調査結果解説

敷金が返ってくる時期

退去の立ち会いの際に敷金の返還の有無と返還率が決まり、清算内訳書が指定の住所に届きます。その後、1ヵ月以内に敷金が返還されることが一般的です。そのため、返還される敷金を引っ越し費用や新生活の準備費用に充てることは難しいでしょう。また、原状回復の費用に関するトラブルが起きると、解決するまで敷金は清算できません。

敷金が返ってこないこともある

敷金が返還されるかどうかを想定するためには、原状回復の考え方や費用負担を理解する必要があります。敷金が返還されないケースや原状回復の負担とその割合について、詳しく見ていきましょう。

敷金返金に関わる「原状回復」の考え方

原状回復とは、賃貸住宅を退去する際に、借りた部屋を入居時の状態に戻して返却することを言います。

原状回復では、壁や天井の補修・塗装、床の補修やクリーニング、窓やドアの修理、機器や設備の清掃や修復などを行い、入居前の状態に戻します。入居者が負担するのは、故意や過失によって汚染・破壊などをした設備や備品の原状回復費用です。

一方、自然な劣化・損耗などによって生じた故障や破損については、大家さんが負担するのが一般的です。ただ、原状回復について、大家と入居者の間で認識に相違があると、敷金返還においてトラブルが起こります。そこで国土交通省住宅局は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定しました。

ガイドラインでは、原状回復の費用や負担割合などについて、一般的な基準が取りまとめられています。

敷金が返ってこないケース例

次のような場合は、原状回復費用に敷金が充当されることが一般的です。

・設備のカーペットに飲み物や食べ物をこぼしたことによるシミやカビ(こぼした後の手入れ不足に起因するもの)
・冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置したことで床を汚染した)
・家具の重みによる床やカーペットのへこみ、設置跡
・台所の油汚れ(手入れ不足によってすすや油が付着している)
・クーラーからの水漏れを放置したことによる壁の腐食
・ガスコンロ置き場、換気扇などの油汚れ、すす(十分な清掃をしなかったことで汚染が生じた場合)

出典:国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より抜粋・改変

重度で広範囲にわたる汚染や破損の場合、それだけ多額の敷金が使われてしまい、1円も返還されない可能性が高まります。

借主は経年劣化による通常損耗については原状回復義務を負わないのが一般的です。一方、故意や過失によって発生した損耗、たばこのヤニ、ペットによるひっかき傷といった特殊な事情によって発生したものは基本的に原状回復義務を負うことになります。

契約内容によっても原状回復の負担・割合は異なる

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインには、法的拘束力がありません。そのため、ガイドラインで原状回復費を入居者負担とすべきではないと定められていても、契約内容によっては入居者が負担することになります。

また、居住していた年数が長いほどに原状回復費の費用負担の割合が下がることがガイドラインで定められていますが、具体的な割合は契約書の内容に従うことが一般的です。

さらに、設備や備品の汚染や破損がなかったとしても、契約内容によっては部屋のクリーニング代が発生する場合があります。

契約書を十分に読み込み、不明点や疑問点は事前に不動産管理会社や大家さんに確認しましょう。

敷金のトラブルを回避するには

「敷金は戻ってくると思っていたのに返されなかった!」 そんな敷金のトラブルは、残念ながら少なくありません。敷金のトラブル回避方法の3つのポイントについて詳しく見ていきましょう。

契約書をよく確認する

契約書には、原状回復費用を誰がどれだけ負担するのかが明記されているため、契約締結の前によく確認しましょう。契約内容がガイドラインに準じていなかったとしても、法律に抵触する内容ではない場合は契約書の内容が優先される可能性があります。

そのため、契約書の疑問に感じた内容は、不動産会社や大家さんに確認し、納得できない場合はサインや押印はしないことが大切です。また、契約内容は交渉できる可能性があるため、原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを示しつつ、内容の変更を打診してもよいでしょう。

入居時の状態を記録しておく

入居前から存在していた傷や汚れ、破損などは、入居者が原状回復費を負担する必要はありません。退去時に設備や備品の汚染や破損を指摘された際、入居前からあったかどうかが焦点となるため、入居前の状態を写真や動画などで記録しておきましょう。

また、汚染や破損などを発見した場合は、入居前に不動産管理会社や大家に報告する必要があります。入居してから報告すると、入居後に起きた破損や汚染であることを疑われ、余計なトラブルになるかもしれません。

原状回復によるトラブルを回避するには、契約書の内容を事前にしっかり確認しておくことが大切です。また、契約当初から傷や汚れがある場合は管理会社に伝え、写真を残しておくことをおすすめします。

丁寧に住む

過失や故意による設備・備品の汚染や破損は、入居者が原状回復費を負担することが一般的です。たとえば、以下のようなケースが該当します。

・壁に大きな穴を開けて家具を取り付けた
・床に飲み物をこぼしてカーペットを汚した
・換気扇やガスコンロを適切に清掃しなかった結果、油汚れやすすが付着した

こまめな掃除や設備・備品の丁寧な取り扱いなどを心がけることで、結果的に敷金がより多く返還されるでしょう。また、退去前に自分で清掃や修理をすることで、原状回復費を軽減できる場合があります。ただし、補修のミスによって状態が悪化し、より多くの原状回復費がかかる可能性もあるため、無理には行わないことが大切です。

まとめ

敷金トラブルは、賃貸物件につきものです。敷金返還のトラブルをなるべく防ぎ、スムーズに新生活を始めるためにも、今回ご紹介した原状回復のルールや敷金トラブルの回避方法について意識しましょう。

監修者プロフィール

監修者
矢野 翔一
関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。

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