住まいのコラム
賃貸の家賃補助制度とは?
条件や種類、制度の仕組みを解説
最終更新日:

- 三輪 歩己
- 不動産鑑定士/宅地建物取引士/日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)/相続診断士/J-REC公認不動産コンサルタント
- 賃貸の家賃補助制度にはどんなものがある?
- 賃貸の家賃補助制度には、企業が従業員に提供する福利厚生のほか、国や自治体、もしくは、住宅供給公社やUR都市機構が提供するものがあります。企業の福利厚生の場合は、住宅手当として現金支給される制度が多く、国や自治体などの場合は、家賃の額が割安になるという制度が一般的です。
賃貸住宅に住んでいる場合、家賃は家計の中で最も大きな負担となりえます。家賃の額を少しでも抑えたいなら、家賃補助制度が利用できないかを検討してみましょう。家賃補助制度には企業によるものや国・自治体によるものなど、いくつかの種類があります。
この記事では、それぞれの家賃補助制度の仕組みや、利用条件についてわかりやすく解説します。
目次
家賃補助制度は賃貸住宅の家賃の一部を補助する制度

家賃補助制度とは、アパートやマンションなどの賃貸住宅で生活している人を対象に、家賃の一部を補助する制度のことです。賃貸住宅で暮らす人にとって、毎月の家賃は支出のうち大きな割合を占めています。その負担を減らすためにぜひ利用したい制度です。
家賃補助制度には、企業が従業員に支給する住宅手当などの福利厚生や、自治体が住民に向けて独自に設けている制度、国が設けている制度があります。制度によって対象となる人や適用条件が異なるため、該当するかどうか確認が必要です。詳しい内容については下記で紹介します。
企業の家賃補助制度:住宅手当・社宅など
企業による家賃補助制度としては、住宅手当があります。すべての企業が実施しているわけではなく、企業によって、福利厚生の一環として支給しているものです。あくまで社内制度のひとつなので、その内容は企業によって異なります。
よくあるケースは、賃貸住宅に住んでいる従業員に対し、家賃の一部(一律数万円、あるいは家賃の一定割合)を支給するというものです。住宅手当は、家賃補助と呼ばれることもあります。
企業によっては福利厚生として、引越しにかかる費用を支給するケースや、個人で不動産契約をするよりも安い家賃になる社宅や社員寮を提供するという形の補助もあります。

まずは勤めている企業に家賃補助の福利厚生がないか、確認してみましょう。自治体や国の家賃補助制度よりも条件が複雑でなく、わかりやすい傾向があるので、最初にチェックすることをおすすめします。福利厚生なので、条件や補助の金額などは企業によってさまざまです。
自治体の家賃補助制度:家賃・引越し費用補助など
自治体による家賃補助制度は、基本的に居住者が市区町村などの自治体エリア内に定住することを支援するために設けられています。無条件で一律に支給されるわけではなく、世帯収入、家族構成、居住している年数、家賃、世帯収入などの条件が設けられていることがほとんどです。
たとえば、新婚世帯や子育て世帯、ひとり親世帯や高齢者を対象に家賃を補助するものが代表的です。年に数回、これらの条件を満たしている利用者を募集して、抽選で当落が決まるというケースもあります。家賃だけでなく、引越し費用が補助される制度もみられます。
自治体によって家賃補助制度の対象や内容は異なるので、居住している、もしくは、引越し予定の市区町村のウェブサイトを確認してみましょう。
企業と自治体の家賃補助制度:宿舎借り上げ支援事業
職業によっては、企業と自治体が共同して設けている家賃補助制度も利用できます。代表的なのは、保育士を対象にした借り上げ社宅制度(保育士宿舎借り上げ支援事業)で、保育事業者に対して、保育士の宿舎を借り上げる際の費用を補助する制度です。
保育事業者が借り上げた社宅に住む保育士は、家賃の一部が補助されます。条件や補助される金額は自治体と事業者によって異なるため、確認が必要です。東京都など一部の自治体では、保育士だけでなく介護職員を対象とした借り上げ社宅制度もあります。
国の家賃補助制度:住居確保給付金
国の家賃補助制度である住居確保給付金は、失業や廃業で住まいを失うおそれのある人を対象とした制度です。
具体的には、離職、自営業の廃業から2年以内(条件により4年以内)、または個人の責任や都合ではない理由で、給与などを得る機会が離職・廃業と同程度まで減少している人が対象です。一定の要件を満たせば、市区町村ごとに定める額を上限として、実際の家賃額が原則3ヵ月間(延長は2回まで最大9ヵ月間)支給されます。
一定の要件には、世帯人数に応じた直近の月の収入合計額や、預貯金合計額などが細かく定められているほか、ハローワークなどに求職の申込みをし、誠実かつ熱心に求職活動を行うという、求職活動の要件もあります。
住まいに関する国の補助制度としてはほかに、民間の賃貸住宅の確保が難しい人を対象にした住宅情報サービス「セーフティネット住宅情報提供システム」もあります。このシステムを使うと、住宅確保配慮者(低所得者、高齢者、障害者、子育て世帯、被災者、外国人など)の入居を拒まない賃貸住宅を探すことができます。

住居確保給付金は、賃貸物件の大家さんや不動産会社に、自治体から直接支払われる仕組みです。実際の家賃額が支給される制度ではありますが、金額には上限があるので注意が必要です。たとえば、東京都23区の場合、世帯の人数が1人なら5万3700円、2人なら6万4000円、3人なら6万9800円が上限となっています。
国の家賃補助制度:移住支援金
移住支援金とは、東京23区に在住または通勤する人が東京圏外へ移住し、起業や就業などを行った場合に支給される支援金です。家賃補助とはやや異なりますが、転居に伴い支給される可能性のある支援金です。
移住支援金の要件には、移住元が東京23区在住者、または東京圏から東京23区への通勤者(大学・専門学校などへの通学期間も含む)であることに加えて、移住先で地域の企業に就業する、テレワークにより移住前の業務を継続する、地域で起業することなどが定められています。
要件を満たしたうえで、移住先の市町村へ申請して認められると、移住先の市町村から世帯移住で100万円、単身移住で60万円が支給されるという制度です。また、世帯移住によって18歳未満の世帯員がいっしょに移住する場合は、18歳未満1人につき100万円が加算されます。

地方移住のメリットは、1.人混みによるストレスが少ない、2.自然環境が豊かな場所が多い、3.物価が安い、4.新鮮な食材が手に入りやすい、などです。移住を伴う新居を探しているなら、移住資金の捻出と移住後の生活費確保のために移住支援金の活用を考えてみるとよいでしょう。
住宅供給公社やUR都市機構による割安な賃貸住宅
住宅供給公社やUR都市機構が提供する、一般の家賃相場よりも割安な金額で住める賃貸住宅もあります。家賃補助が受けられたり、仲介手数料が無料であったりと、賃貸にかかる費用を抑えることができます。
特定優良賃貸住宅
特定優良賃貸住宅は、特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律にもとづいて建てられた賃貸住宅です。都道府県や住宅金融支援機構などの資金を利用して建設された賃貸住宅で、主にファミリー層向けの物件として供給されています。
この特定優良賃貸住宅を、収入が一定基準の範囲内の人が借りる場合に、家賃負担を軽減する措置がとられます。広さや設備が比較的充実している上に、間取りはファミリー向けの物件が中心で、条件を満たせば家賃補助も受けられるため、2人以上のファミリー世帯にとってメリットが大きいといえるでしょう。
補助金額は所得ランクによって変動し、補助割合が算定されるため、毎年所得を証明する書類を提出する必要があります。また、賃貸期間は原則として管理開始月より15年間または20年間です。
基準は各自治体や管理会社によって異なりますが、入居するには審査に通る必要があります。主な申込み条件は下記のとおりです。
<特定優良賃貸住宅の申込み条件>
・入居予定者全員が日本国籍または外国人登録を受けている
・同居予定の親族がいる(婚約者も可)
・収入があり、世帯の月額所得が20万~60万1000円の範囲内(自治体により例外あり)
・連帯保証人を立てることができる(保証会社の利用が可能な場合もあり)
・住民税を滞納していない
UR賃貸住宅
UR都市機構は、大都市や地方中心都市における市街地の整備や賃貸住宅の安定供給を目的として、2004年に設立された独立行政法人です。前身は、戦後の住宅不足を解消し、高度成長期には郊外のニュータウン開発などを行ってきた日本住宅公団です。
そのUR都市機構が管理・提供する賃貸住宅が、UR賃貸住宅です。UR賃貸住宅は仲介手数料が発生せず、さらに礼金や、長く住んだ場合の更新料も不要です。また、保証人も必要ありません。
家賃についても、子育て割、そのママ割、U35割など、条件を満たす世帯(人)を対象にしたお得な家賃プランが用意され、所定の期間内はお得な家賃で住むことができます。
公社賃貸住宅
公社賃貸住宅(公社住宅)は、住宅供給公社が所有・管理している賃貸住宅です。住宅供給公社とは、勤労者を対象に良好な集合住宅の供給などを行うために、都道府県や政令指定都市など地方自治体の出資によって設立された公法人です。
公社賃貸住宅も、仲介手数料、礼金、更新料が発生しません。ただし、UR賃貸住宅と違って連帯保証人は必要で、用意できない場合は保証会社と契約(料金が発生)する必要があります。条件を満たせば、家賃補助のサービスを受けられる物件もあります。
公営住宅
公営住宅は、都道府県や市区町村などの地方公共団体が建築し、低所得者向けに相場よりも低額な家賃で提供している公的賃貸住宅です。県営住宅や市営住宅などが代表的です。
公営住宅の家賃は、基本的に住宅の規模や立地条件、築年数、そして入居者の収入によって計算されます。入居者資格は、現在同居している親族がいる、または同居しようとする親族がいること、世帯の収入月額が基準以下であること、現在住宅に困っていることが明らかであることなどです。
家賃補助を利用する際の注意点

家賃補助の利用を検討する際は、以下の点に注意が必要です。
企業による家賃補助制度は課税対象
国税庁の定めでは、企業が従業員に支払う手当は、一部を除いて給与所得として扱うとしています。住宅手当も、残業手当などと同じく給与所得となり、課税対象になります。
国や自治体の家賃補助制度は申請期限や条件を確認
国や自治体の家賃補助制度は、一定期間のみ募集しているものが多くなっています。募集時期や期間は自治体により異なるため、事前に調べておく必要があります。
対象者の条件も細かく指定されているのが通常です。内容を事前によく確かめておかないと、書類を作って届け出ようとしたら、条件の一部に該当していないことがわかったということも。自治体のウェブサイトなどで内容を確認し、利用できそうなら窓口で相談をして、細かい条件や申請の流れなどを確認するのがおすすめです。
まとめ
賃貸住宅の家賃補助制度には、企業が福利厚生として従業員に提供するものから、国や自治体が経済的負担を軽減するために設けている制度まで、さまざまな種類があります。
国や自治体による家賃補助制度のほか、住宅供給公社やUR都市機構が提供する割安な物件は、特に子育て世帯や所得の少ない世帯が利用できる可能性があることを知っておきましょう。
監修者プロフィール

- 三輪 歩己
- 不動産鑑定士、宅地建物取引士、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、相続診断士、J-REC公認不動産コンサルタント。
約20年間の鑑定・宅地建物取引業の経験を活かし、2020年に不動産パートナーズ株式会社を設立し、代表取締役に就任。同社では、不動産鑑定業・宅地建物取引業に加え、不動産専門の相続診断士として活動を行う。