敷金とは?
礼金との違いや返金の有無、なしの場合のデメリットを解説
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- 矢野 翔一
- 2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者/有限会社アローフィールド代表取締役社長
- 敷金とは?
- 敷金とは、入居者が退去時に負担する原状回復費用の預かり金としての役割を持つお金です。入居者の故意・過失により発生した設備・備品の修繕や交換の費用に使われ、余りが出た分は入居者へ返金される場合があります。関西地方では敷金ではなく保証金という名称が用いられる場合がありますが、敷金とほぼ同じ役割です。
賃貸物件の情報が記載された不動産広告には、ほぼ必ず「敷金」についての記述があります。契約時や退去時の費用に大きく影響する敷金とは、どのような役割を持つお金なのでしょうか。
今回は敷金の役割や相場、礼金など他の費用との違いについてご紹介します。
敷金とは?礼金・仲介手数料・保証金との違い

敷金とは、入居者が退去時に負担する原状回復費用の預かり金としての役割を持つお金です。入居者が故意・過失により破損させた設備・備品を修繕するための費用や、入居者負担のルームクリーニング費用などに充当されます。
敷金は、あくまで入居者が負担する可能性がある修繕費用を大家さんに預けているだけです。原状回復にかかる費用が敷金の金額内で収まる場合には、多くの場合残額が返金されます。
礼金との違い
礼金とは、賃貸物件の大家さんに支払う礼金の役割を持つお金です。一般的に家賃の1~2ヵ月分程度に設定されています。かつて現在よりも賃貸物件の数が少なかった時代に、住居を提供してくれた大家さんへ渡されていた心付けが、賃貸契約における慣習として定着したといわれています。
入居者から大家さんへお礼として支払うお金であるため、原則として敷金のように借主の原状回復費用に充当されません。また、支払った時点で大家さんの収益となるため、入居者の退去時に返金されることもありません。
敷金・礼金を簡単にわかりやすく解説!いつ払う?返ってくるの?
仲介手数料との違い
仲介手数料は、入居者と大家さんの間に入って契約手続きを行う不動産仲介会社に支払う手数料であり、入居時にかかる初期費用の一種です。
賃貸契約が成立した時にだけ発生する成功報酬であるため、仲介会社に何件も物件を紹介されたとしても、契約が成立するまでは仲介手数料を支払う必要はありません。また宅地建物取引業法によって仲介会社が請求できる仲介手数料は上限が決められており、最大でも「家賃の1ヵ月分+消費税」までとされています。
保証金との違い
保証金は、入居者が退去する際に発生する原状回復費用や滞納家賃に充てられる預かり金です。役割は敷金とほぼ同じであり、主に関西地方で採用されている制度です。
敷金との違いは、預けた保証金のうち一定額は必ず返金しない「敷引き」という特約がついている点にあります。関西地方の賃貸契約には礼金の文化がなかったため、保証金の一部を大家さんへのお礼に充てるという風習が根付いていました。
しかし、近年では関西地方でも敷金・礼金を採用するケースが増えており、保証金の制度はあまり使われなくなっています。今後さらに賃貸契約に関わる文化が統一されていけば、ほかの地方への転勤などで見知らぬ土地の部屋探しに戸惑う人も減っていくでしょう。
敷金の相場はいくら?
不動産広告の中にある「敷1」といった表記は、該当の物件を契約する時に支払う敷金は家賃1ヵ月分であることを示しています。物件によって「敷2」「敷0」といったように異なる設定がされていますが、共通する相場はあるのでしょうか。

出典:国土交通省住宅局「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」
国土交通省住宅局が公表した「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」によれば、敷金が設定された物件で請求された敷金は「(月額賃料)1ヵ月ちょうど」が64.9%。「(月額賃料)2ヵ月ちょうど」が25.0%でした。
1ヵ月・2ヵ月の合計はほぼ90%の割合であり、そのうち3分の2は1ヵ月ちょうどが占めていることから、敷金の相場は1ヵ月が一般的と考えて差し支えないでしょう。
敷金が返ってくるケース・返ってこないケースがあるのはなぜ?

原状回復費用で使い切れなかった分の敷金は返金されると前述しました。
一方で、相場を超える敷金を払っていたにもかかわらず、まったく返金がないというケースもあります。敷金はなぜ返金されるときとされないときがあるのでしょうか。
敷金が返金されるケース
敷金を使って原状回復をしなければならない汚損・破損が少ない場合、敷金の返金を受けやすくなります。壁や床に傷をつけない、浴室やトイレに落ちない汚れをつけないなど、ハウスクリーニングだけで原状回復できるような状態を保てば、敷金の返金が期待できます。
なお、一般的な使用の範疇における経年劣化や損耗に対する原状回復費用は、入居者が負担する必要はありません。入居者の責任で発生した傷や汚れを回復させる費用だけが負担の対象となりますので、できるだけ部屋をきれいに使うように心がけましょう。
敷金が返還される割合や返還時期についてはこちらでも詳しく解説しています
敷金が返金されないケース
入居者の故意・過失により発生した設備や備品の汚損・破損は、原状回復費用に敷金が充てられます。壁紙やフローリングの張り替えはある程度広い範囲で行わなければならないため、たとえつけた傷が小さく狭い範囲のものだったとしても、修繕に敷金の大半が使われるかもしれません。
また、傷や汚れの場所がキッチンと浴室、居室とトイレなど複数箇所に渡る場合は、より多くの原状回復費用がかかります。そうなると敷金の返金が期待しにくくなるだけでなく、敷金で賄いきれなかった現状回付費用を請求されることもあるでしょう。
フローリングや壁につけた傷の修繕費用ついてはこちらでも詳しく解説しています。
賃貸のフローリングに傷がついた!退去時の費用は?修繕は必要?

通常使用・経年劣化にタバコのニオイやヤニの付着、ペットがつけた傷が含まれるかが問題になりがちです。これらは通常使用・経年劣化に該当せず、入居者が負担するものとされているため、敷金が原状回復に充てられます。
敷金なし物件もある

敷金は必ずすべての物件に設定されているわけではありません。一部の物件では敷金と礼金のいずれかをゼロにする場合や、両方を取らない「ゼロゼロ物件」として入居者を集めることがあります。
敷金なしの理由
敷金なし物件の多くには、敷金を設定しないだけの理由があります。
設備の古さや建物全体の傷みなど、ほかに比べて居住性が悪い物件は敷金なしに設定されやすくなります。また、日当たりが極端に悪い部屋や騒音トラブルが発生しやすい環境なども、初期費用の安さで入居者を集めたい理由になるでしょう。
一方、とくに目立った問題がなくても敷金を設定しない物件も存在します。
敷金の返金額を算出する根拠は入居者側からは見えにくいため、時には不透明な精算結果に対し大家さんが少額訴訟を起こされるトラブルが発生します。一度裁判が始まってしまうと大変な手間と時間が必要になるため、精算トラブルを避けたい大家さんの中には、原状回復費用を実費で精算したがる人もいるのです。
敷金をなしにする理由は物件によってさまざまですので、物件を検討する際には仲介会社に理由を確認しておくとよいでしょう。
敷金なし物件のメリット
敷金なしの物件のメリットは、なんといっても初期費用の安さにあります。敷金は一般的に家賃1~2ヵ月程度に設定されるため、家賃5万円の物件では入居時に5~10万円を多く支払う必要があります。敷金なしであれば、その分初期費用が抑えられるというわけです。
また、敷金なしにすることで、大家さんのほうにもメリットがあります。
前述したように敷金をゼロにすれば、家賃1~2ヵ月分だけ初期費用が安くなるため、初期費用を理由に物件を見送られる可能性を低減でき、入居希望者を集めやすくなります。
敷金なし物件のデメリット
敷金なしの物件には入居者にとって気になるデメリットも存在します。
入居時に敷金を払わずにすむ敷金なし物件ですが、退去時に原状回復費用を払わなくてもいいというわけではありません。退去時には入居者に責任がある原状回復の費用やハウスクリーニング代を払わなければならない分、大きな支出が必要になります。
退去時は、いわゆる引越しのタイミング。次の物件に入居するための費用も支払わなければならないため、物件によっては支払いが集中することになります。金額によっては、引越しを断念せざるを得なくなるリスクもあるでしょう。
敷金なし物件を借りる前に確認すべきこと
敷金なし物件を借りる前には、物件の状態や契約内容に問題がないか確認をしておきましょう。物件の状態を確認するのに加え、入居者に不利な特約が加えられていないかのチェックも重要です。
不誠実な不動産会社の中には、初期費用を安くする一方で退去時にかかる費用を割り増しにしている会社があります。鍵交換の費用やハウスクリーニング費用を相場よりも高く設定するなど、入居者が断りにくいタイミングでお金を回収しようとするケースは珍しくありません。また短期間での退去時に違約金を支払う特約が追加されている場合もあります。
敷金なしに釣られて悪条件で契約を結ぶことのないよう、あらかじめ退去時にかかる費用の相場を調べておき、不当な特約を避けるように注意しましょう。

民法の改正で敷金と原状回復の方針が示されたことでトラブルは減少傾向にあります。しかし、ハウスクリーニング費用のように別のトラブルが増えているため、契約書の内容をしっかり確認してから契約しましょう。
まとめ
敷金は退去時の原状回復費用に充てられる前払い金の役割を持っています。賃貸契約においては一般的な費用項目ですので、役割や扱われ方は契約前に学んでおくとよいでしょう。
敷金をゼロに設定する物件は、初期費用こそ安くなるものの、退去時に多額の原状回復費用を請求される場合があります。また、条件の悪さを初期費用の安さで隠そうとしているケースもあるため、敷金なしという条件だけで選ぶのは避けたほうがよいでしょう。
賃貸物件を探す際には敷金の設定にも注目し、住みやすく条件の良い物件を選べるようにしましょう。
監修者プロフィール

- 矢野 翔一
- 関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。