賃貸物件の壁に画鋲はダメ?
壁の穴は修繕する必要があるのか
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- 矢野 翔一
- 2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者/有限会社アローフィールド代表取締役社長
- 賃貸物件の壁に画鋲を刺しても良い?
- 一般的には壁に画鋲程度の小さな穴を開けたとしても、入居者は原状回復義務を負う必要がなく、問題ないと言えるでしょう。国土交通省がまとめた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」においては、壁に開けた画鋲の穴は通常損耗の範囲とみなされます。
ただし、物件によっては賃貸借契約上の禁止事項として原状回復費用が請求される場合がありますので、契約条件を確認のうえで画鋲の使用を検討しましょう。
賃貸物件として借りた部屋を自分風にアレンジしたいという方は多いのではないでしょうか。好みのポスターや写真を飾り自分好みの空間を作りたいところですが、無断で賃貸物件の壁に画鋲を使っても問題はないのか気になるところです。
今回は、賃貸物件の壁に画鋲を使ってもいいケースとNGのケース、画鋲の代わりに使えるアイテムを紹介します。
賃貸の壁に画鋲を指しても原状回復義務違反にならない=問題ない

賃貸物件の壁に開けても問題ないかどうかの判断基準として、「原状回復義務」があります。壁に画鋲で小さな穴を開けたとしても、原状回復義務を負わされるケースは少なく、一般的には問題ないと考えられます 。
賃貸経営の「原状回復義務」とは
賃借人(入居者)は賃貸物件からの退去時に、物件に生じた損傷を回復する義務を負います。この義務を「原状回復義務」といい、国土交通省がまとめた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によって、賃借人が修繕費用を負担すべき損傷の種類を定めています。
このガイドラインでは、賃貸物件に発生する損傷を、以下の3つに分類しました。
・建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
・賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
・賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損
耗等(特別損耗)
このうち、賃借人が費用を負担すべきと定めている損傷は、特別損耗に対する原状回復費用のみです。ガイドラインは時間経過によって発生する経年変化や、通常使用にともなう損耗の範疇である通常損耗の修繕費用は、賃貸人(大家)が負担すべき費用であると定めています。
なお、経年劣化・通常損耗と特別損耗の分かれ目は、通常の使用であるかどうかが判断基準とされます。画鋲の使用によって開けられた穴は、壁紙の張り替えをともなわない程度であれば通常損耗の範疇とみなされ 、原状回復義務には含まれません。一方で、タバコ等によるヤニ汚れや臭いは、賃借人の使い方によって発生した汚損であるため、原状回復義務に含まれると考えられます。
退去時にかかる費用や原状回復義務について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
賃貸の退去費用はいくら?相場や高額請求されたときの対処法を解説
賃貸の画鋲利用でNGなケース

画鋲を使用して壁に穴を開けたとしても、一般的には原状回復費用は発生しないと考えられています。しかし、画鋲であればどのような使い方をしても問題がないわけではありません。
以下で、原状回復費用を請求される可能性がある、NGなケースを紹介します。
襖やドアに画鋲、画鋲でとめたものの日焼け跡
画鋲で穴を開けた対象が襖やドアである場合、壁に対する穴よりも厳しく判断される場合があります。
一般的に、壁に開けた画鋲の穴は目立ちにくく、耐久性能にも影響を与えないため原状回復の対象にはなりません。一方で襖に開いた穴は壁よりも目立ちやすく、襖本体が傷む原因にもなりやすいため、張り替え費 用が請求される場合があります。
同様にドアに開けた穴は画鋲程度の大きさであっても目立ちやすいため、ドア全体を交換する費用が求められるケースもあります。
また、壁に画鋲を刺した後の扱いも要注意です。 画鋲の穴は問題にならなくても、日焼けにより画鋲の跡が壁に残ったときや、飾ったもので隠れた部分と周辺の色に差が出てしまうと、壁紙の張り替え費用を負担しなければならない場合があります。何かを飾っている期間が長いほど日焼け跡は目立ちやすくなりますので、ポスターを貼るときには日光が当たりにくい場所を選ぶといった工夫が必要です。
釘穴・ネジ穴は基本的にNG
多くの賃貸物件では画鋲の穴は問題視されませんが、釘穴やネジ穴は基本的にNGだと考えられるでしょう。
釘やネジは重さのあるものを架けるために用いられることが多く、画鋲よりも深く大きな穴を開ける必要があります。そのため目立ちやすい跡が残ってしまい、刺した場所によっては下地ボードの張り替えが必要に なる場合も。通常使用の範疇とは認められないケースが多いでしょう。
最近では壁掛けテレビを設置するために壁に釘やネジを打ち込むケースがありますが、退去時に高額の原状回復費用を請求される場合があります。壁に穴を開けないようなテレビの掛け方を検討する必要があるでし ょう。
賃貸借契約で画鋲の使用がNGとなっている場合
物件によっては、賃貸借契約の中で画鋲の使用を禁止している場合があります。ガイドラインでは画鋲の使用を通常損耗に含めていますが、大家さんが契約の中で画鋲の使用を認めていない場合には、借主は契約内 容に従わなければなりません。
契約書をよく読まずに画鋲を使用した結果、退去時に下地ボードの交換費用まで請求されてしまうかもしれません。不安であれば、契約時に管理会社の担当者や宅建士に画鋲を使える範囲を確認しておきましょう。

画鋲利用で原状回復義務を負うかどうかはケースバイケースです。画鋲程度であれば通常損耗に含まれるので原状回復義務を負わないと安易に考えるのではなく、どのような場合に原状回復義務を負うのか把握するほか、契約前に原状回復に関する特約が定められていないか契約書をしっかり確認しましょう。
賃貸の襖やドアに画鋲を開けてしまったら?穴埋めすれば大丈夫?

もし襖やドアに画鋲を刺して穴を開けてしまった場合、借主が自分で穴埋めをしても問題はないのでしょうか。
結論から言えば、借主が自ら補修を行うのはおすすめできません。ホームセンターなどにはさまざまな種類の補修用の道具が販売されており、上手に使えば穴を目立たなくできます。しかし、素人である借主が補修を行った結果、状態の悪化やドアの汚れを引き起こしてしまうと、本来は不必要であった交換費用や修繕費を請求されてしまうことになりかねません。
もしドアに画鋲を刺してしまったなら、退去時に管理会社へ正直に伝えるようにしましょう。退去時の対応になれている管理会社であれば、専門の業者に依頼するといった適切な対処を行い、修繕費用の負担が最小 限になるように取り計らってくれるでしょう。
また、穴を開けたのが襖であれば、通常損耗による張り替えとして処理してもらえるかもしれません。仮に借主負担での補修が必要になったとしても襖の修繕費用はそれほど高額ではないため、敷金の範疇で済むケ ースが多いでしょう。
費用負担を避けようとして被害を拡大させないよう、画鋲の穴の存在を正直に申し出ることをおすすめします。

原状回復義務の費用負担を軽減する工夫がネットにあふれていますが、本文にもあるようにその工夫が原因で費用負担が大きくなる可能性があります。ごまかそうとせず正直に申し出ましょう。
画鋲の代わりに使えるアイテム

インテリアとしてポスターやカレンダーを貼って楽しみたい場合、画鋲の代わりになるアイテムを使うのがおすすめです。ここでは、一般的な画鋲よりも穴が目立たないアイテムや、壁に穴を開けないアイテムをご 紹介します。
ニンジャピン
ニンジャピンは画鋲の一種であり、ピン先がV字の形状になっているのが特徴です。
丸形のピンを刺す一般的な画鋲に比べピン跡が目立ちにくく、色・柄がついた壁紙では穴の跡を見つけることすら難しいでしょう。
また、ニンジャピンにはカラーバリエーションが豊富な商品が多く、部屋の雰囲気やポスターなどに合わせた色を選択できる点も魅力です。
ソフト接着剤
ソフト接着剤は、壁に貼り付けてポスターを固定できる半固体状の接着剤です。粘着力がある粘土を薄くのばすような使い方ができるため、壁にポスターを飾る際にも活躍します。
なお、一般的な接着剤よりも粘着力が弱いので、重量が重いものを長期間貼り付けるには不向きです。
また何度も繰り返し使用できますが、長期間貼り続けると壁紙が変色する場合がありますので、貼り付ける先の材質には注意しましょう。
ステープラー
ステープラーは、ホチキスの名称で広く知られているコの字型の針(ステープル)を打ち出す文具です。ステープルの先は画鋲よりも細く、壁紙に打ち付けても跡はほとんど残りません。
ステープラーにはさまざまな形状の商品がありますが、画鋲代わりに使う際には180度開けるタイプのものがおすすめです。
まとめ
賃貸物件の壁に画鋲で開けた穴は、国土交通省が定めたガイドラインにおいては修繕費用を負担する義務の対象にはなりません。入居者は退去時に自らの故意や過失で発生させた損耗を元に戻す原状回復の義務があ りますが、画鋲による壁の穴は通常損耗の範囲とみなされ、修繕は大家側が行うのが一般的です。
一方で、壁に開けた釘やネジで開けた太めの穴や、画鋲で襖やドアに穴を開けた場合には、通常損耗の範囲を超えたとみなされるケースもあります。また、賃貸借契約の中で壁への画鋲の使用を禁止していた場合に は、原状回復費用の負担を求められる可能性が高いでしょう。画鋲を使うのに不安が残るようなら、画鋲よりも穴や汚れが目立たないようなアイテムの使用も検討しましょう。
監修者プロフィール

- 矢野 翔一
- 関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。
不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。