賃貸の退去費用はいくら?
相場や高額請求されたときの対処法を解説
最終更新日:

- 三輪 歩己
- 不動産鑑定士/宅地建物取引士/日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)/相続診断士/J-REC公認不動産コンサルタント
- 退去費用はどのくらいかかる?
- 退去費用の額は、部屋の広さや傷みの状態によって大きく変わります。相場としては、ワンルームや1Kで1万5000円から4万円程度。1部屋増えるごとに1万~2万円程度増えていく場合が多いでしょう。なお、経年劣化による汚れや損耗は退去費用の対象外なので、入居者の支払いは不要です。
賃貸物件を退去する際には、部屋を原状回復するための退去費用を支払うのが一般的です。ただし、経年劣化による汚れや自然災害による破損といった、住んでいる人に責任のない汚れや設備の破損などは原状回復する必要がありません。
この記事では、退去費用の範囲や安く抑えるコツ、高額請求されたときの対処法などについて紹介します。
賃貸物件の退去費用とは?

賃貸物件の退去費用とは、賃貸アパートや賃貸マンションなどから引越しをするときに、住んでいた人が負担する費用です。前の住人が退去した賃貸物件は、次の借り手の入居の前にクリーニングや原状回復をしなければいけません。退去する住人がつけてしまった傷、汚れなどをきれいにして原状回復するための費用は、退去時に請求されます。これが退去費用です。
退去費用は通常、入居時に支払った敷金と相殺されるもので、敷金よりも退去費用が少なければ差額が返金され、多ければ追加で請求されます。入居時の敷金が0円だった場合は、退去費用の全額を退去時に支払わなければならないこともあります。
退去費用の額は、退去後に管理会社などから入居していた人に対して通知されますが、「クリーニング費用が根拠不明の高額だった」「もともとついていた汚れや傷の修繕費が上乗せされていた」といったトラブルが発生することも少なくありません。
管理会社にいわれるままに退去費用を払うのではなく、内訳を確認して、不明点がないか確認することが大切です。違和感を見逃さないためにも、退去費用の基本的な知識を身につけておきましょう。
退去費用の金額はどうやって決まる?

退去費用の金額は、原状回復が必要な箇所や、クリーニングを依頼する業者の価格によって異なります。しかし、退去費用の範囲については、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を出しています。
ガイドラインによると「経年劣化」と「通常損耗」については、入居者が修繕する義務を負いません。経年劣化とは、年を経るごとに自然と起こる日焼けや色褪せなどが該当します。また、通常損耗は、通常使用していて起こる範囲の設備の汚損などです。たとえば、家具を長く置いていたせいで生じた床のへこみなどは、通常損耗です。
一方、入居者の故意や過失による傷や汚れは、入居者が負担すべきものとされています。また、入居者の住み方や設備の使い方次第で発生したりしなかったりする費用については、入居者負担になる可能性について検討すべきとのことです。
たとえば、掃除をしなかったことで発生した浴室のカビなど、一般的な手入れを怠ったことによる汚損などの原状回復費用は、請求される可能性があります。
国土交通省の資料はあくまでもガイドラインなので、実際の金額は個別の事情を踏まえて検討されます。しかし、経年劣化と通常損耗は貸主負担、故意や過失による汚損や破損は入居者負担というのは、ひとつの基準になるので覚えておきましょう。
入居者の負担となる「故意・過失による損傷」
退去費用のうち、入居者の負担となる故意・過失による損傷には、下記のような場合が該当します。
<故意・過失による損傷の例>
・壁に掃除機をぶつけて壁紙がはがれてしまった
・床に子どもが落書きをしてしまった
・ルームフレグランスを多量に利用していたことで部屋ににおいが染みついている
・誤って障子を破いてしまった
・ペットがふすまを引っかいてボロボロにしてしまった
・うっかり雨の日に窓を開けっぱなしにしていて壁にシミができた
・喫煙で壁紙にヤニ汚れがついた
・観葉植物の鉢から水が漏れていて床が腐食した
・結露を放置したせいでカビが発生してしまった
故意や過失による設備の破損だけでなく、手入れを怠ったことによる汚損についても、入居者負担になる可能性があります。
退去費用に加算されない「経年劣化・通常損耗」
経年劣化や通常損耗による汚れや傷の補修は貸主負担ですから、退去費用には影響しません。たとえば、下記の費用は通常貸主負担です。
<経年劣化・通常損耗の例>
・フローリングや畳、壁紙などの日焼けによる変色
・クロスやふすまの経年による自然変色
・家具を長年置いていたことによる床のへこみや傷
・冷蔵庫の裏側などにできた電気焼けの黒ずみ
・カレンダーや時計などを取り付けた際の小さい穴
・通常使用していて起きた設備や機器の故障、不具合
・地震や台風などの自然災害によって生じた窓ガラスの割れ
もし、請求された場合は根拠を問い合わせることをおすすめします。ただし、特約により入居者の負担になるケースもあります。
フローリングや壁に傷をつけた場合の退去費用・修繕費用ついてはこちらでも詳しく解説しています。
賃貸のフローリングに傷がついた!退去時の費用は?修繕は必要?

原状回復費用やクリーニング費用などの退去費用は、費用の発生する項目が多く、どれがオーナー負担なのか、入居者負担なのかについては、トラブルになりやすいポイントです。予想外の費用を負担するよう求められた場合は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や入居時に交わした賃貸借契約書を確認のうえで交渉に臨みましょう。
退去費用の相場

退去費用の額は、一概にいえるものではありません。大まかな目安としては、部屋の間取りに応じて、下記のような相場になっています。
ワンルーム・1K | 1万5000~4万円 |
---|---|
1DK・1LDK | 3万~5万円 |
2DK・2LDK | 4万~8万円 |
3DK・3LDK | 5万~10万円 |
4DK・4LDK | 9万円~ |
とはいえ、同じワンルームでも、6畳のワンルームと、18畳のワンルームでは条件が変わります。物件によっては、入居時に退去費用の目安を提示してくれる場合もあります。
退去費用を安くおさえるポイント

退去費用は、退去前の部屋のメンテナンスによって変わる可能性があります。退去費用を安く抑えるためにできることを確認しておきましょう。
退去前の掃除を徹底する
退去立ち合い日の前に、費用が発生する可能性がある部分を徹底的に掃除しておくことで、故意や過失による汚れがないことをアピールできます。
退去費用が決まるのは、主に退去立ち合いのタイミングです。貸主や管理会社の担当者が部屋の状態を確認したうえで、費用の見積もりが作成されます。掃除は退去立ち合い日の直前に行っておくと効果的です。
また、部屋全体の印象も大切です。清潔に使っていたと伝えるために、窓や床など部屋全体の掃除をしておきましょう。水回りの掃除に加えて浴室のカビなども、市販の洗剤でできる限りきれいにしておくことをおすすめします。
ハウスクリーニングを頼む
市販の洗剤では落とせないような汚れがついてしまっているときや、退去前に掃除の時間が取れないときは、ハウスクリーニングを活用する方法もあります。たとえば、壁紙のヤニ汚れなどなら1万~1万5000円程度、浴室のクリーニングなら1万5000~2万円程度でクリーニングを依頼できます。
ただし、ハウスクリーニングの依頼にもお金がかかるため、退去費用の価格表と見比べて「自分で依頼したほうが安い」という場合は活用してもよいかもしれませんが、プラスに働くかどうかはわかりません。
たとえば、壁紙のクリーニングを頼んだのに結局汚れを落としきれずに貼り替えになってしまったといった場合、費用が二重にかかってしまいます。安易に依頼せず、十分な検討をしてください。
退去費用が高額になりがちな傷や汚れに注意して生活する
たばこのヤニによる汚れやにおい、ペットがつけた傷や汚れなどは、原状回復に高額な費用が発生しがちです。とはいえ、ペットに関しては、そもそもペット飼育可の物件であることから、入居時の敷金も高めに設定されていたり、事前に退去費用についての説明があったりする場合も多くなっています。入居時に確認しておくと安心でしょう。
また、画鋲などの小さな穴であれば問題ありませんが、DIYで大きな穴を開けてしまったり、うっかり物をぶつけて穴が開いてしまったりした場合は、補修費用が高額になります。このような破損が発生した場合は、発生時に管理会社に連絡をしてすぐに修繕と清算を済ませてしまうか、退去時に支払う金額の目安を確認しておくことをおすすめします。
鍵の紛失も高額請求につながる可能性がありますが、鍵は紛失した時点で管理会社に連絡するのが一般的です。もし、紛失したまま合い鍵を使い続けていると犯罪被害に遭うリスクが高まるので、紛失した場合は早急に連絡するようにしてください。
なお、退去時に鍵を返却しようとして、スペアキーの不足に気づいた場合は、その旨を申告することになり、鍵の交換費用を請求される可能性が高まります。
入居前からある傷や汚れを記録しておく
退去費用を抑えるためには、入居前からあった傷や汚れと、入居後の傷や汚れを明確に区別することも大切です。入居した段階で部屋に傷や汚れがあったときは、写真撮影をして管理会社に報告しておくことで、入居時からある傷や汚れであることを証明できます。
また、入居の際に取り交わす賃貸借契約書には、入居者の負担になる汚れや傷の例、退去費用の内訳、室内での禁止事項や注意事項などが明記されていますので、あらかじめ確認しておきましょう。通常は貸主の負担になる経年劣化や通常損耗の一部を、入居者負担にする特約などが明記されている場合もあるので、注意が必要です。
なお、特約をつけた賃貸借契約は法的に認められていますが、そのためには金額を明示しなければならないとされています。入居者の負担となる金額がわからない特約が記載されていた場合は、金額を明らかにするよう求めるか、特約を外してもらうように管理会社と交渉してください。

退去費用を安く抑えるには、退去直前に対処するのではなく、入居時や、入居中から対処しておくことをおすすめします。掃除を定期的にして、部屋を大切に使うことが、退去費用の節約につながります。退去直前になってしまった場合は、できる限りの掃除をするだけでも効果があります。
退去費用を高額請求された場合の対処法
請求された退去費用が高額だった場合は、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、自分でできることと、外部の第三者に相談する方法を紹介します。
高額請求の内訳を確認し相場と比較
退去費用が高額だったときは、まず内訳を確認します。細かい費用が記載されておらず、総額のみだった場合は、管理会社に内訳を紙面で提示するように依頼してください。
内訳が入居者負担の「故意・過失による汚れや損傷」に該当するか確認し、もし、該当しないものが含まれていたら、その理由を管理会社に問い合わせます。
ただし、特約がついた契約を締結していたなら、故意・過失以外の汚れや損傷も入居者負担になるため注意が必要です。その場合は賃貸借契約書に支払う金額が明記されているので、照らし合わせて金額のずれがないことを確かめます。
また、内訳別の金額が妥当なのか、費用の相場を確認します。複数の内装業者のウェブサイトなどで金額の相場を調べてみて、請求された金額が相場よりも大幅に高い場合は、値下げ交渉が可能です。
日本賃貸住宅管理協会や消費者ホットラインに相談
退去費用の内訳が妥当ではないにもかかわらず、管理会社が交渉に応じない場合は「公益財団法人日本賃貸住宅管理協会」や「消費者ホットライン」に相談することで解決する可能性があります。
日本賃貸住宅管理協会は、賃貸物件に関するトラブルのアドバイスを行ってくれる団体です。ただし、管理会社への直接的な指導などは行いません。
一方、消費者ホットラインは賃貸に限らずさまざまな商品やサービスの購入で起こったトラブルの紛争解決を行う公的機関です。相談すると、地域の消費生活センターにつないでもらえます。ただし、消費生活センターも事業者への直接的な改指指導は行えません。退去費用の請求内容が悪質な場合は、弁護士に相談することも検討してみましょう。

もし高額な退去費用を請求されてしまって、細かい費用の内訳を確認しても納得できず、交渉が難しい場合には、日本賃貸住宅管理協会や消費者ホットラインなどの第三者機関に一度相談してみるのも手です。それでもうまくいかなければ、弁護士に相談し、一緒に対処することで解決するケースもあります。
まとめ
引越しをするときは、新居の敷金や礼金などの初期費用に加えて、もともと住んでいた部屋の退去費用も発生します。敷金からの相殺であれば新たな支出は発生しませんが、退去費用が妥当な金額かどうか確認しておくことは大切です。
退去費用の内訳をもとに、納得できる金額かチェックしましょう。問題がある場合は、管理会社に問い合わせてみてください。
監修者プロフィール

- 三輪 歩己
- 不動産鑑定士、宅地建物取引士、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、相続診断士、J-REC公認不動産コンサルタント。
約20年間の鑑定・宅地建物取引業の経験を活かし、2020年に不動産パートナーズ株式会社を設立し、代表取締役に就任。同社では、不動産鑑定業・宅地建物取引業に加え、不動産専門の相続診断士として活動を行う。